5.実践の方法
5.2 感情分析の実践
基本姿勢の確立で説明したように、まず現在の自分の思考パターンを把握し、自己建設的な生き方に変える姿勢を身につけます。
それは、感情は感情として善悪評価せず、ひとの現実として尊重し、行動については現実の全てを考慮した上で、最も建設的なものを選ぶ努力をすることです。
望ましくない感情であっても、それを「正す」という姿勢は取らないで下さい。それは心の健康を損なう姿勢です。
すると今度は、どうしても建設的に前を向いてくれない感情というものが、足かせのように気になってきます。
本格的な感情分析は、それについて行います。
感情分析を実践する作業とは、上に述べた基本姿勢をそのまま続け、「感情の吟味と把握」が加わったものです。
感情の吟味と把握
感情の吟味とは、感情をじっくり味わい、その真意を感じ取ることです。
これは一般に、感情が一度起きても、それがどんな感情なのか自分で実感することなく、それが見えなくなるということがあるからです。
連鎖的に起きる感情に気を取られることでこれが起きるのが「感情に流される」ということであり、単純にそれに目を向けないというのが「自分放棄」というわけです。
自分の感情が十分に見えないことがもたらす問題は2つです。
ひとつは、自分の感情を分かっていないので、現実において自分に不利な、不適切な行動に走ってしまうこと。
もうひとつは、積極的に目をそむけた感情が、それによって消えるのではなく、「無意識」に蓄積されて、そこから影響が出続くというものです。
心理障害においては、この2つの弊害とも顕著です。
特に、無意識に蓄積された悪感情が、心理障害の原因そのものの一つであり、「感情の膿」と呼んでいます。
感情分析においては、この心理障害の原因に対して、まさに正攻法で対応します。
感情は感情として十分に実感し、そこにおいてしかるべき消化吸収が起きる、という自然の摂理に任せることです。
感情を実感するために、意識的に吟味する、つまり感情が湧くに任せる以上に、自分からその感情を味わい、心の中で繰り返し感じてみる、反芻するという作業を行います。
感情の把握とは、それが起きる状況や前後関係、起きた強さなどを、文字通り把握することです。
これは主に、上の感情吟味を補佐するものと考えて下さい。
感情が起きる状況を把握しておくと、「今本当は自分はこう感じているのではないか」という吟味への導きが、よりスムーズにできるようになります。
特に、ひとつの感情と、一見すると無関係な感情の関係を把握するのに努めていると、特に重要な隠された感情に近づくことができます。
この「積極的な感情吟味」を推し進める姿勢の最大の指針は、「自分に嘘をつかず正直でいる」ことです。
自分に嘘をついた時。それが心理障害の始まった時だったのです。
「ハイブリッド心理療法とは」の「5.感情分析」で述べたように、感情分析の過程でそれを遡ります。
やがて自分が自分についた嘘を見出し、嘘を破綻させて元に戻るという、辛い作業ですが、それが成長の痛みであることを知っておいて下さい。
感情吟味の実践と感情メカニズム理論
感情吟味の実際の方法ですが、自分の思考を把握するために「どうして?」と自分に問いかけたように、ここでは「本当には何を感じているの?」「この感情にはどんな意味があるの?」と問いかけて下さい。
問題はその複雑性です。
心理障害が発達した時点では、もはや自分で自分の感情が分からないという状態からスタートします。
これを、最後の、ほんとうにきれいに解きほぐされた所まで進めるのに、我流の思考では全く歯が立ちません。
つまり、ある程度専門的な心理学の知識を元に、「これはこの何とか感情ではないか?こんな意味ではないか?」と、ある程度試行錯誤的にでも、積極的な感情吟味の試みをするという方法になります。
ハイブリッド心理療法では、このためにカレン・ホ−ナイの精神分析理論を使います。
「心理障害の感情メカニズム」にそれを掲載します。
ここからの過程は、本来ならば専門家の援助を得ながら行うのが望ましい、難しい作業になります。
ホ−ナイ精神分析の専門家が少ない状況もあり、費用面とかもありますので、自己学習で何とか進められるか、一度読んで見て頂きたいと思います。
基本的な方法は、やはり、今一番気になる自分の感情に関連しそうな説明を読んで、「この感情はこのことだろうか。ここに書いているように自分は感じているのだろうか」と、自分の内面に向き合い、積極的な感情吟味を続けることです。
あとは、基本姿勢で述べたように、感情は感情として尊重する、その上で行動は別のものとして建設的なものを考える、という営みを続けて下さい。
これは生きる過程そのものであり、これからの人生そのものとも言えます。
日記などで表現し、記録するのも非常に効果的です。
言葉として書くことで、ひとつひとつの「感情の区別」が明瞭になります。
また、後から読み返すことで、それが新たな糸口になることがあります。
注意しなければならないのは、それは自分のために行う作業であって、人に見せることを考えないで下さい。
人に見せることを意識すると、かならずバイアス(偏り)が無意識のうちに起ります。
そして本当に重要な感情とは、本当に誰にも(自分自身にさえも!)知られたくなかったような感情に出会うことです。
たとえ、同じ心の病を持つ方同士の交流においてもです。
このため自分のHPに日記を公開されている方は、本格的な感情分析を進めたい場合はそれを停止するのが原則です。
別の言い方をすると、「自分の日記を人に見せたい気持ち」というものが、感情分析の対象になることが往々にあります。
公開日記は「自分の心を見せるものではない」と切り分けられれば、そのままでも構いません。
今まで無意識であった感情が意識化され、それが建設的な姿勢の中で、もはや過去であり現在にとっては無用として、消化吸収されていくものもあるでしょう。
あるものは捨て去るどころか、これこそが自分の本当の感情なのだとどっぷりと入り込むものもあるでしょう。
それに対する姿勢も同じです。感情は感情、行動は行動。
おさらいになりますが、「建設的な行動」の基準は善悪ではく、あなた自身の自由に立ってあなた自身の幸福のために選ぶということです。
そして幸福とは、心理医学から言うならば、「欲求全体の調和ある満足状態」です。
そのような自由な欲求に立つ生き方のために、各種の思考法行動法がありましたね。
どの欲求に向かうのが良いのかは、もはや一般論はありません。それが千差万別の人生です。
さて、実際にこの感情分析の過程を歩くために、以上が基本的な「歩き方」です。
「心理障害の感情メカニズム」は「地図」に該当します。
しかし、これではまだ不足です。
どこから出発して、どこに到着すればいいのか、道筋案内や航程表が必要です。
その道筋の大まかな特徴は、「ハイブリッド心理療法とは」の「5.感情分析」に書きました。
実際のナビゲートとなるものを、次の感情分析の進行過程に掲載します。
2003.6.14