5.決め付け思考と中庸思考
(1)10種類のマイナス思考
認知療法が定義した10種類のマイナス思考を下に挙げます。
重要なのは、単にその反対の「合理的思考」するよう自分に「強いる」のではなく、別の考え方ができないかを自分に問うことです。
以下にそれぞれ簡単に説明し、「別の考え方」の例を添えておきます。
その結果、考え方感じ方を実際に変えられるものと、心の感情がどうしても変わろうとしないものが出てくるでしょう。
変えられないものは、善悪と「べき」の中で生きる基本的姿勢が残っているためです。
最終的には、それが心理障害の大元となった「感情の塊」のようなものとして姿を見せると思います。
それが、根本的治療である「感情分析」への糸口になります。
1)全か無か
ものごとを白か黒のどちらかで考える思考法。少しでもミスがあれば、完全な失敗と考えてしまう。
これは特定の姿を「善し」としてそうなるべきという姿勢の、基本的な結果です。
この姿勢の基本的な思考方法は、「重ね合わせ」です。
「理想」と「現実」を重ねあわせ、ぴったり合うかどうかを評価します。
ちょっとでもずれると、重ねあわせた画像が乱れますので、不満足の程度に関係なくそれは唾棄すべき結果なのです。
これは心理障害の核である自己操縦心性がまさにそのような意識の土台を持っているので、感情の極端さについては意識的な抵抗は無駄でしょう。
むしろ、より合理的な思考を知った上で、この極端な「感情の論理」を感じ取って下さい。克服は感情分析で扱います。
【合理的思考】
完全に「善い」人間などはいないし、逆に完全に「悪い」人間もいない。
2)一般化のしすぎ
たった1つの良くない出来事があると、世の中すべてこれだと考える。
3)心のフィルター
たった1つの良くないことにこだわって、そればかりくよくよ考え現実を見る目が暗くなってしまう。
4)マイナス化思考
なぜか良い出来事を無視してしまうので、日々の生活がすべてマイナスのものになってしまう。
これらは、善悪と「べき」思考の中で、自分が良い人間になれなかったという意識の現れと思われます。
基本的に他力本願の思考なので、良い人間でない自分には天罰が下るという思考です。
もうどうせ駄目だ、全て悪くなる、という感情が底流にあります。
自分を善悪評価するのでなく、自由な人間欲求のために努力するという思考体系に切り変えることで、積極的に抵抗して下さい。
【合理的思考】
「どうせそうなる」、そう決め付けられる現実的証拠はあるのか?
何故悪い面だけを見る?そこには一片のよい面もあるはずだ。
それは物事の「悪い解釈」だ。では「良い解釈」をするとどうなるだろう。
5)結論の飛躍
a、心の読みすぎ:ある人があなたに悪く反応したと早合点してしまう。
b、先読みの誤り:事態は確実に悪くなる、と決めつける。
これもひとつは上の「天罰」思考によるものです。
あと一つ重要なこととして、自分の中にある感情が、自分の中でなく人の中にあるかのように知覚される、「感情の外化」という心理学的現象があります。「6.対人関係を阻害する「外化」」で詳しく説明します。
この仕組みを理解して、そのせいではないかと自分を客観的に見る姿勢を持って下さい。
バーンズの「いやな気分よさようなら」には、「相手が本当に嫌っているのか確かめるのもいい」とありますが、それはしないことです。猜疑心や不信感は決して行動化しないのが原則です。心の中で解決されれば完全に消え去る問題にすぎませんが、行動化すると消すことのできない行動履歴として、対人関係の溝が発生します。
既にそうしてしまったら、完全な関係修復は基本的に難しいことを受け入れ、その上で誠実に行動するのが良いでしょう。
【合理的思考】
そんなイメージが湧くのはしかたない。だが現実がその通りである証拠はない。ならば、ひとまず心の中の空想にすぎないと心得ておこう。空想に反応して行動してしまうと、一人相撲になってしまう。
想像したのと別のケースとはどんなものだろう。これも考えてみよう。
6)拡大解釈と過小評価
自分の失敗を過大に考え、長所を過小評価する。逆に他人の成功を過大に評価し、他人の欠点を見逃す。
重ね合わせ思考の結果です。
意識的抵抗をするより、その極端な感情の論理を感じ取り把握して下さい。
自分の長所を過大に考えるナルシズムや躁も、おなじ根本から生まれます。
自分の過大評価と過小評価の現実離れの程度は同じです。おなじ根元だからです。
その根元そのものを感じ取るのが、実は「感情分析」の重要な作業になります。
【合理的思考】
確かに空想の中では、何か大そうなことのようだ。だが、現実にそこまで行ったのか?
7)感情的決めつけ
自分の憂うつな感情は現実をリアルに反映している、と考える。「こう感じるんだから、それは本当のことだ」
この「感情的決め付け」は「善悪志向vs現実志向」の生き方の問題というより、単独の、人間心理の罠の話です。
「不安を感じる。だから大変な事が起る」というように、何かの結果起きる感情を、現実外界で悪いことが起る証拠のように決め付けてしまうものです。
「3.心理学の目で自分を見る」で扱った、自分の感情を過度視する傾向の特別のバリエーションと言えます。
自分と外界現実を客観的に見る姿勢によって、この不合理思考から抜け出して下さい。
これは他の問題との絡みがないため、比較的すぐ可能になり、心理障害の程度を即時に軽減する重要な対処法です。
【合理的思考】
感情が「酷い」と感じたから、現実も酷いと思い込んでしまった。感情は単なる感情だ。現実を見る目は分けておこう。
8)すべき思考
何かをやろうとする時に「〜すべき」「〜すべきでない」と考える。あたかもそうしないと罰でも受けるかのように感じ、罪の意識をもちやすい。他人にこれを向けると、怒りや葛藤を感じる。
善悪を決め付けて生きる姿勢にある人の基本的な思考です。
心理障害の「親」とも言えるものですから、その基本的姿勢を、人間の自由欲求のために努力する生き方に変えることが大切です。
「べき」でなく「したい」が行動原理になりますから、全ての人がそれぞれの欲求に生きる点では平等です。
自分にも人にも「べき」を押し付けないので、願いがかなうかどうかは、相手を尊重し現実に適した行動が取れるかどうかの問題になります。
【合理的思考】
それは誰が「べき」と言ったのか?この世には絶対の「べき」なんて存在しない。
9)レッテル貼り
極端な形の「一般化のしすぎ」である。ミスを犯した時に、どうミスを犯したかを考える代わりに自分にレッテルを貼ってしまう。「自分は落伍者だ」。他人が自分の神経を逆なでした時には「あのろくでなし!」というふうに相手にレッテルを貼ってしまう。そのレッテルは感情的で偏見に満ちている。
「善悪の中で生きる」姿勢、「静止画の中で生きる」姿勢の結末とも言える思考です。
現実はもはや現実というより感情の象徴になります。この程度が酷いと、精神病的思考に近づきます。
基本的な生きる姿勢の変更と同時に、このような思考が自分の中に起きた時には、積極的にその不合理性を自覚して、現実を客観的に見ることを心がけて下さい。
「6.対人関係を阻害する「外化」」で説明する外化の仕組も大きな原因のひとつです。
【合理的思考】
それは自分の心の中の何かの感情を、レッテルのように相手に当てはめて固定してしまったものだ。自分も相手も流れる時の中で動いている存在だ。このレッテル貼り思考はやめよう。
10)個人化
何か良くないことが起こった時、自分に責任がないような場合にも自分のせいにしてしまう。
善悪を決め付けて自分を評価する姿勢、現実世界より自分の「静止画像」を見ている姿勢の表れです。
彼彼女は被告席に立った審判の中の人間であり、とにかく世界が彼彼女の責任判定に注目しているという、世界が自分を中心に回っているという感覚でもあります。
全人が平等な自由欲求の中で生きるという姿勢が大切です。
感情の外化も大きな原因です。
また、複雑な心理として、抑圧された破壊的衝動が原因となっている場合があります。
【合理的思考】
自分のせいだという感情は、現実に基づいたものだろうか?ただそんな気分が起きただけではないか?
2003.5.19